目を瞑って不機嫌なオーラを出しまくっていた聖弥さんは、私の声が聞こえたらしくゆっくりと目を開けた。





「行くぞ」





私を認識するなり一言だけ低く言って、すぐに歩き始めてしまった。




聖弥さんの一挙一動に周りのギャラリーが息を呑んだのがわかる。




聖弥さんには絶対的な…有無を言わさない威厳と貫禄がある。




フラットに周りと馴染んで統率が取れる弘翔とは別の、洗練された雰囲気と美しい所作で人を惹きつける蓮さんとも別の、圧倒的な…一種恐ろしいくらいのカリスマ性。




楓さんと一緒に居る時は感じなかったけど…聖弥さんも昌さんと同じ、人の上に立つ長なんだ。




今まで聖弥さんと会う時は弘翔が一緒でフォローしてくれていたけど、改めて聖弥さんを見ると私のような普通の小娘が本来なら絶対に関わらないであろう人だなと思ってしまった。






呆気に取られていた由美子たちに『ごめん!』と小さく誤ってから聖弥さんの後を追う。





学校近くに聖弥さんのだと思われる車が止まっている。




珍しい黒塗りのスポーツカーで、運転席は当たり前のように左側。聖弥さんは何も言わずに乗り込んでしまった。





「乗れ」




どうしたらいいのか分からなくて立ち尽くす私に痺れを切らしたらしく聖弥さんが声を掛けてくれる。






「楓以外の女は助手席に乗せないようにしている。悪いが、後ろに乗ってくれ」





「あ、はい」





言われてそそくさと乗り込む。




今の言葉もそうだけど、やっぱり聖弥さんは物凄く楓さんん事を愛してるんだろう。




口数は決して多い人ではないけど良い人なんだなって伝わってくる。





「あの…楓さんは?」





恐る恐る訊ねてみると、サングラスをかけていた聖弥さんが眉間に皺を寄せたのがバックミラー越しに見えてしまった。




本当は今日、楓さんが迎えに来てくれるって話だったんだけど…なんで聖弥さんが?





「朝から駿が熱を出しててな」





「なんか、そんな時にすいません!」





「いや、それに関しては気にしなくていい」




ただ、俺は弘や遥輝と違って口が上手くないからな、不快な思いをさせてしまったらすまない。







それだけ言って、静かに車を発進させた。




本当は聖弥さんの部下の人が迎えを買って出てくれたみたいだけど、私用だからという事で聖弥さんが直々に迎えに来てくれたようだ。




だからって春名組の組長がわざわざ私なんかの為に車を出してくれていいのだろうか。




それに…浴衣の話を弘翔はちゃんとしてくれなかったけど、なんで楓さんに頼んだんだろうか。





そう思っていると、




「俺の母方の実家が古い呉服屋をやってるんだ」





私の考えていることが分かったらしく聖弥さんが教えてくれた。