「改めまして!秋庭葵(あきばあおい)です!」
「あっ、横手美紅です。よろしくお願いします」
リビングのソファーに腰を下ろすと妹さんが自己紹介をしてくれた。
見れば見るほどやっぱり可愛い。
「敬語やめてください!私、18で高3なんで美紅さんより年下ですから!」
という葵ちゃんの一言でお互いに敬語は無しになった。
私も弘翔の身内から敬語を使われるのはくすぐったくて変な感じがするから。
ちなみに、お兄さんはキッチンでコーヒーを淹れてくれている。
お客さんにやらせるのは申し訳ないし、私がやろうと思ったけど、弘翔にも葵ちゃんにも任せておけばいいと言われてしまった。
「さっきは紛らわしい事しちゃってごめんね美紅さん」
「いや!ホント…私が勝手に勘違いしただけだから…!」
チラリと弘翔を伺えば困ったような顔をしている。
なるほど…あの状況の理由は説明しづらいわけか…。
確かに、兄妹とはいえ、弘翔の膝に手を置いて泣きそうな顔で何かを懇願している図って勘違いされてもおかしくないと思う。
実際、私は勘違いしちゃったし…
「弘兄に私の恋路の手伝いを頼んでただけだからね!」
「えっ?」
「おい、葵…言っていいのか?」
「いいの!弘兄の彼女さんでしょ?根回しは大事だからね!」
二人の会話に首を傾げる。
人の恋愛の話を聞いてしまっていいのだろうか…。
弘翔が止めるのもわかる気がする。私と葵ちゃんは今日が初対面だし。
そもそも葵ちゃんの想い人と面識がない可能性の方が高いし…。
「あのね…」
と葵ちゃんが話そうとしたその時、ちょうどキッチンからお兄さんが戻ってきた。
美味しそうなコーヒーの香りが部屋中に広がる。
この家に常備してある豆を使ったんだろうけど…私が淹れた時よりも遥かに良い香りがする。
『どうぞ』と前に一度会った時よりも100倍くらい優しい声で言われ、マグカップを受け取った。
「この間は申し訳ありませんでした。少々、気が立っておりまして」
この間とは…かなり衝撃的だった初対面のことを言ってるんだろう。
それにしてもこの人…前は暗くて顔がよく見えなかったけど、ありえないくらい整った容姿をしている。
そして、この前の抑揚が全くない冷たい声とは違う…耳に馴染む透き通った低い声。
聖弥さんほど低い声でも、弘翔みたいに甘さを孕んだ声でもないけど、前と違ってちゃんと私に向けられた声は…とても美しい声だった。
