大切なものを選ぶこと




今度会った時に彼女がいるかどうか高巳に絶対聞こう!




一人でどうでもいいことを考えながらマンションまでの道を歩く。




大学から家までは徒歩で20分くらい。弘翔と一緒だとあっという間なのに今日は遠く感じた。








───さて…弘翔は帰ってきてるかな?





そう思いながらエントランスを開け、エレベーターに乗り込む。




今日の夜ごはんは何にしようか…




昨日は全部弘翔が作ってくれたから今日は私が…。でもなんだかんだ手伝ってくれるんだろうな。






鍵は掛かっていないので先に弘翔が帰っていたようだ。






「ただいまー」







………。



嫌な予感がする。




玄関には…見慣れない女性物の靴と弘翔の靴。




私以外の女性の靴。嫌な記憶が脳裏を掠める。






「……弘翔?」





全力疾走した後のようにバクバクと音をたてる鼓動。





震える声と共にリビングのドアを開けると…








「「ッッ!?」」







ソファーに腰かけている弘翔と…泣きそうな顔で弘翔の膝に手を置いて何かを懇願している女性。






驚いたであろう弘翔と女性の顔が同時に私に向いた。







あぁ…また捨てられたんだ。





何度も経験した、浮気された時のあの感覚が全身を駆け巡った。上手く言葉がでない。





唇が震える。あれ、呼吸ってどうやってするんだっけ。







夏樹さんが言ってたっけ。しばらくはあの光景がフラッシュバックすることがあるかもしれないって。





あぁ、フラッシュバックってこういうことを言うのか。







「美紅!」





弘翔の焦った声が聞こえるのと同時にリビングのドアを閉めた。





出て行かないと…出て行かないと…





何かに追われるように、急いで玄関に向かう。広すぎるこの家が今だけは憎い。




早くここから出て行かなければ。








──玄関について靴の踵も踏んだままでドアを開けた。






「ッッ?」






私が開けるのよりほんの少しだけ早くドアが開き、意図せず前のめりになってしまう。




倒れる…と思ったけど、誰かに正面からぶつかった。





えっ…?と思って顔を上げると…






ひどく冷たい瞳に射貫かれた。










「思慮の浅い女性は好ましくありませんね」