他愛もない話をしていればあっという間に時間は過ぎてしまう。
聞き上手で話し上手な弘翔が相手だと話が尽きない。
──「あ、そうだ美紅。明日は昼間に仕事が入ったから大学まで迎えに行けない」
「わかった。帰り、遅いの?」
「いや多分、美紅が帰って来る時間には終わると思うんだが…待たせることになったら悪いからな」
「そっか、じゃあ一人で帰るね!
かき氷屋を出て、夕飯の食材の買い出しをしていると弘翔にそれとなく告げられた。
まぁ、珍しいことではない。
昼に仕事がある日の弘翔は朝私と同じ時間に家を出て、私の大学が終わる時間の少し前か少し後に帰って来る。
その日だけは大学に迎えに来ない。
──「夕飯、何がいい?」
「んー…なんでも?」
「それが一番困るんだよなぁ」
野菜を手に取って鮮度を確認しながら困ったように笑う弘翔。
イケメンは野菜を選ぶ姿まで絵になっている。
主婦の奥様方の視線を一身に集めていることは自覚した方が良いと思うけどね…。
「和洋中、どれがいい?」
「和食かなー」
「よっしゃ、じゃあ肉じゃがときんぴらでも作るかな。あとは…煮魚と焼き魚と刺身、どの気分だ?」
「んー…お刺身食べたいかも」
「ん、了解。久しぶりに捌くかー」
いつもこんな感じで夕食が決まってしまう。
女子力というか男子力というか彼氏力というか…。ひたすら弘翔に甘やかされている自覚しかない。
ちなみに弘翔は、どこぞの料理人ですか!?っていうくらい料理が上手い。
噂のお兄さんがプロ級の腕前で、お兄さんに仕込まれたらしい。
弘翔は私の作った料理も美味しいとニコニコしながら食べてくれるけど、100人に聞いたら100人が弘翔の料理の方が美味しいと答えると思う。
「お、鰯が安いな。刺身と…つみれ汁にでもするか…」
ぶつぶつ言いながら買い物をする弘翔の横顔を見ながら、柄にもなく幸せだなーとか思ったりする。
───その日の夜は完璧すぎる和食がテーブルに並んだのは言うまでもない。
