弘翔が自分の事のように辛そうな顔をしているのが私も辛い。
まだちゃんと弘翔のお兄さんのことを知ったわけではない。だから…
「うん、大丈夫!今度はちゃんと紹介してね。いきなりだったからビックリしちゃった」
明るく、何事もなかったかのようにしよう。
実際、みんなが口を揃えて凄いって言うような人なんだから、悪い人なわけがない。
弘翔が敬愛しているお兄さん。それだけでも信用できる人なんだろうなって思える。
「あぁ、今度ちゃんと紹介するよ」
「うん!」
安心したような表情を浮かべた弘翔はそのまま私の額にキスを落とした。
「今日は色々と悪かった」
純さんに拉致られてから、昌さんやご家族の方々との未知との遭遇のことを言ってるのだろう。
確かにびっくりすることの連続だったけど、秋庭家のことを知るいい機会だった。それに…本当に楽しかった。
だから、弘翔が気にすることは何もない。
「みんなとってもいい人たちで安心した。楽しかったしね!」
「そうか。なら良かったよ」
安心したように胸を撫で下ろした弘翔につられて私も笑顔になる。
「桜さんが『夏は海よ!水着よ!』って言ってたけど…、どういうこと?」
「うちの伝統でな、8月の最終日に1泊2日で伊豆に行くんだよ。所帯持ってる組員は家族を連れて来ても来なくても何でもあり。秋庭組ってこと自体隠して、旅館も全部貸し切り。だから堅気として生きてる奴らも参加する行事だな」
なにそれ楽しそう!!
そう思ったのが顔に出ていたらしく、弘翔に優しく頭を撫でられる。
「もちろん遥輝さんたちも来るし、聖弥さんも完全プライベートで護衛も付けずに毎回参加してるな。純なんかは嫁さんと子供連れて来るし、夏樹も来るぞ」
「それ、私も行っていいの?」
「来てくれないのか?組の奴らに俺の大事な人だって紹介したのに一人で行ったらフラれたと思われちまうよ」
破顔して言う弘翔。
そんな風に言ってもらえるだけで幸せだ。
「今日みたいなノリが大丈夫なら楽しめると思うぞ」
今日みたいなノリ、大好きです。
弘翔の言葉のおかげで夏がとっても楽しみになってきた。
「ま、あれだ。補講とか追試にならないように前期の単位は落とすなよ~」
せっかくテンション上がったのに余計なことを言う弘翔の横腹を突いておいた。
