大切なものを選ぶこと




どれくらいの時間、立ち尽くしていたのだろうか…。



生々しく血に染まったYシャツの衝撃で頭が真っ白になってしまった。





ガチャリとドアが開く音がしてやっと我に返った。






「美紅!!」




どれほど慌てて帰って来たのだろう。額に汗が滲んでいる弘翔。





玄関で立ち尽くしていた私を訝しく思ったらしく、紙袋を取り上げられた。






「やっぱり…遅かったか…」




大きく息を吐いてから、優しく私を抱きしめる。



まるで…こうなることがわかっていたかのように。





無意識に震えていたらしく、何も言わずに弘翔は強く優しく私を抱きしめた。






「ごめんな。不安にさせたよな」





抱きしめてくれる弘翔の胸に体を預ける。



あぁ…私の大好きな人だ。





弘翔の胸に顔を埋めてその匂いを確かめる。




いつもの弘翔の匂い。さっきの血の匂いではない。







「…男の人が…来てた…」





「兄貴だ。怖かったよな、本当ごめん」






やっぱり、さっきの人が弘翔のお兄さん。





想像していたのとは全く違った。




高巳も、純さんも、土方さんも…みんな、凄い人だって…優しい人だって言っていたから、勝手に温かい人柄を想像していた。




でもさっきの人は全然違った。





感情がないような、一切のことに興味がないような…そんな人だった。







「言ってなくて悪かった。俺と美紅以外にもう一人…兄貴もこの家の合鍵持ってるんだ」





「そう…だったんだ」





「何か話したか?」





「ううん…何も」





「………………」





「………………」





「………………」





「何があった?」








震える身体は誤魔化しきれなかった。




全身全霊で私を愛してくれる弘翔が騙されてくれるわけもない。





本気で心配してくれている声色で問われれば隠し事はできない。







「本当に何もなかったよ…。相手にもされなかった…」





抱きしめる弘翔の腕に力がこもる。





あの人が弘翔のお兄さん…。




想像と全く違う。優しくて温かい弘翔とは真逆のタイプ。





そして…血だらけのYシャツを無表情で渡してくるような人。





何を考えていたのだろうか。いや、何も考えていなかったのか。







「兄貴のこと、勘違いしないでくれ。次会った時にちゃんと紹介するから。だから…そんな顔してくれるな」







私の何倍も…辛そうな顔をしながら弘翔が言った。