土方さんと別れ、人気のないエントランスを一人でくぐる。



思うことは色々とあるけれど弘翔から直接聞いた方が良い。






──改めて今日のことを思い出してみると怒涛の一日だった。





大学終わりにいきなり純さんに拉致されるし、初対面の昌さんは死ぬほど怖かった。




だけど、秋庭の人々はみんな、心が温かくて優しい人たちだった。




そんなことを考えながら、2種類の鍵を使って部屋のドアを開ける。







「……弘翔?」





まだ帰ってきてないと思ったのに、微かに人の気配がする…。




あれ、弘翔もう帰ってきてるのかな?






「………………」





呼びかけたけど返答がなくて不安になる。




人の気配はするのに…なんか変だ。






「弘翔ー?」




訝しがりながらもリビングに足を入れた。




でもやっぱり…誰もいない。





不安になりながらも荷物を置くと、お風呂の方から微かに水の流れる音がしている。




なんだ、シャワー浴びてたのか。




ホラーっぽいことにならなくてひとまず安心。ホッと息を吐いた。




これだけのセキュリティのマンションだし、流石に泥棒が入るとは思ってなかったけど夜も遅いし不安だった。






──タオルは準備してるかな?




『着替えは大丈夫なんだが、タオル忘れる事多いなぁ』と昨日の夜にボヤいていたのをふと思いだす。




念のため…と思ってタオルを持って脱衣所に向かう。






『開けるよー』と小さく声を掛けてから脱衣所のドアを開けた。






「…えっ……?」





「……………」





「……………」





「……………」










状況を理解できなくて、たっぷり固まること約10秒。




我に返ってから急いでドアを閉めた。





だっ…誰!?今の。




てっきり弘翔がシャワーを浴びているものだと思ってドアを開けたのに…そこで髪を拭いていたのは全く知らない人だった。





タオルで顔は隠れていてよく見えなかったけど、あれは弘翔じゃない。





泥棒かなとも一瞬考えたけど、向こうには全く慌てた様子がなかった。







テンパっている私をよそに再び脱衣所のドアが開いた。




出てきた人物は…タオルを頭から被っていて、電気も付けていないので顔はよく見えない。




弘翔より少しだけ低い身長。180㎝くらいだろう。細身でモデルみたいな体形だ…。







「…なるほど、理解致しました。私としたことが」






私を一瞥した男性は小さく呟いてから何事もなかったかのように書斎に足を向けた。





昌さんや聖弥さんと初めて会った時とは全く異なった恐怖が全身を襲う。







この人は…私に一切の興味がないのだ。