大切なものを選ぶこと




───「入りますよ」




迷路みたいな広い屋敷を歩いて、辿り着いた応接間。




ここもやっぱり和室だ。




襖を開けて中に足を踏み入れると…






「あら、本当に可愛い子じゃない。やるわねぇ弘」





「………………」






椿さんにそっくりで美人な女性と、眉間に皺の寄った…だけど、弘翔に引けをとらないくらい男前な男性がいた。





二人とも和服が恐ろしいくらい似合っている。






「ご無沙汰してます、聖弥さん」





「…………あぁ」





物凄く不機嫌そうな表情をしている男性の前まで行って頭を下げた弘翔。





声は弘翔より少し低くて、貫禄というか威圧感が半端ない…。




昌さんの時と同様、怖すぎるオーラに思わず息をのんだ。






「聖ちゃん!美紅ちゃん怯えてるから!その仏頂面いい加減やめなさいよ」





「…おい楓。人前でそのふざけた呼称を使うなと何度言ったらわかる」





「何度言われてもわからないって、何度言ったらわかるの?聖ちゃん」





「………………」






え、何、この空気…?





そう思ってると『気にしなくていい。いつものことだ』と弘翔に耳打ちされた






「ごめんね美紅ちゃん気にしないでね。聖ちゃんツンデレなのよ」





「おい…楓」





「仏頂面もいつものことなのよ。別に怒ってるわけじゃないからね」





「………………」






横を見れば弘翔が小さく笑っている。






「まだ名前を言ってなかったわね。私は春名楓(はるなかえで)。弘の姉で歳は今年で33になるわ。今日は来てないけど息子が一人いるのよ。よろしくね、美紅ちゃん」





「よろしくお願いします!!」





ふわりと笑った顔はやっぱり椿さんに似ていて、大和撫子の言葉が似合う黒髪超絶美人さんだ。





そういえば…桜さんたちはいくつなんだろう……と、思ってると、





『桜は30で遥輝さんは31だったかな』と弘翔が教えてくれた。





30歳で子持ちであの可愛さって…桜さんヤバすぎる…





美人の代名詞と言っていいくらい黒くて長い髪の似合う楓さんもヤバいけど…