大切なものを選ぶこと




「美容師さん!」




遥輝さんの言葉に被せるように思わず叫んでしまった。




みんなの目が私に向いてしまい、しまった…と少し後悔…。





でも、思わず大きな声を出してしまうくらい遥輝さんって…






「今、東京で最も予約の取れない美容師さんですよね!?」





有名な人だ。





大学で真希や加奈がしょっちゅう話題に出している。





‘千賀遥輝’という、メディア出演は一切無し、お店のHPも無い、正体不明のカリスマ美容師がいるって…




口コミのみで評判が広がって、お店も住宅街のわかりにくい場所なのに、今東京で最も予約の取れないお店だって…






「おーよく知ってるね。予約が取れない云々は置いといて、美容師やってるよ」





穏やかに笑う遥輝さんは若い女性からマダム世代にもウケそうな顔立ちだし、文句なしのイケメンで、真希たちが騒いでいた意味が分かった。







「さすがに秋庭組との関係が世間にバレると商売がしづらいからね。広告も出してないし、メディア関係も全部断ってるんだよ。よく知ってたね」






「いやいやいや!遥輝さん、この辺りじゃ超有名人じゃないですか!私の大学の友達みんな知ってましたよ!」





この辺りというか…東京都内じゃかなり有名だ。




こんなにすごい人まで身内にいるとか…秋庭家凄い…






「美紅ちゃんみたいな可愛い女子大生に知ってもらえてるなんて光栄だな。髪切る時やセットする時は遠慮なく言ってよ。いつでも大歓迎だからさ」





もちろん、予約なんていらないからね。






「いいんですか!?」





「もちろん、弘の彼女さんとは俺も仲良くしたいからね」






そこまで言ったところで…





「遥輝さん」




少し不機嫌な弘翔の声が部屋に響いた。





ついでに、そのまま弘翔に抱き寄せられる。






「俺の彼女、誑かさないでくださいよ」





言い終わるのと同時に額にキスが落とされた。







へ…?




え…!?





弘翔が人前でこんなことするのは初めてだ…




恥ずかしさで顔が熱くなる…







「あー、ごめん弘、そんなつもりじゃなかったんだけどな。安心して、俺はずっと桜一筋だからさ」





サラッと言った遥輝さんはそのまま桜さんの唇にキスを落とした。