大切なものを選ぶこと



─昌之side─





「本当にあれでよかったの?昌之」






「椿…君がそれをいうのかい」






弘翔が彼女だと言って連れてきた女の子は肝が据わった、だけど可愛らしい子だった。




先程二人に椿が言ったように、あの弘翔に大切だと思える女性ができたことは親としては喜ぶべきことだ。







だが…世の中、そんなに甘くない。






「聞けば、あちらの親御さんには弘翔の職業は隠しているみたいじゃない」





「そのようだね」





「昌、二人が傷つく前に…」







椿の言わんとしていることは俺も百も承知だ。





もし俺があちらの親御さんの立場なら、大事な自分の娘をヤクザなんかに関わらせたくない。






「なぁ椿…。うちの子たちに普通の恋愛をさせてあげられないのは俺の業のせいかな」





「昌…」





「金も学もなかった俺が今この立場にいるのは全部あの人のおかげだ。色んなものを踏み台にしてここまできた。あの人の命の代償に組長になったあの時、極道で在ることを二度と後悔しないと誓ったはずなのにな」






俺が極道で在ることと家族がこの世界で生きなきゃいけないことは同義じゃない。あの人の屍を踏み台にしたあの時からずっと自分を誤魔化し続けてきた。





そんな、都合のいい話なんかある訳ないのに。





俺が極道で在ることと、家族が裏の世界で生きなきゃいけないことは同義だろ。




あぁ、なんで俺が辛くなってる。




自分の子供たちに普通の恋愛をさせてやれない。




それってこんなにキツイもんなんだな。






あぁ、会いてぇな。




死ぬほど、会いたい。



死んだら会えるぞ、なんて野暮な事を言いながら大声で笑うんだろうな。







「楓を嫁に出した時も、桜を嫁に出した時も、申し訳なさで死にたくなったが、今回もまた…くるなぁ」







極道の男のもとに生まれてしまった憐れな俺の子たち。




何度でも、何度でも、言い続けよう。




普通の生き方をさせてやれなくて、すまない。





俺が極道で…すまない。






「じゃあ今からでも普通の生き方してみる?できないでしょ。親である前に一人の男であったあなたが、あの人から託されたもの守らずに家族の為だけに生きるなんて無理よ。家族と天秤にかけられないくらい大事な男から任された組でしょ。それに、私が惚れた昌之は、極道の男よ」





「……あぁ」





「大丈夫よ。弘にはあのブラコン兄貴がついてるからね」






真顔で言われて、思わず破顔した。





そうだ、そうだった…




俺の最も信頼しているあいつがいるな…






「そうだな。どんなことが起こっても、弘翔がどんな岐路に立たされても、蓮がいれば何も問題ないな」






俺が最も尊敬してて、俺が最も信頼していた男の、






忘れ形見が。