弘翔によく似た、だけど弘翔よりも年をとっている貫禄のある男の人。
よく見ればこの部屋はかなりの大広間で、上座は下座よりも一段高くなっていて、立派な床の間が上座の後ろに鎮座している。
床の間には…日本刀が飾ってあり、掛け軸には『どちらかといえば女尊男卑』と豪快な毛筆で書かれている。
──上座で胡坐をかき、扇子で煽ぎながら、私を品定めするように視線を動かす組長。
この人が本当に弘翔のお父さんなのだろうか…
顔も声も似ているけど…オーラや貫禄が違う。
弘翔にはこんな人を威圧するようなオーラはない。
これが…極道の長…。
「そう怖がらんでくれ。まぁ座れ」
「ッッ、はい…」
この人の一挙一動は…怖い。
意図してそういう雰囲気を醸し出しているのか…声を上げて泣きたくなるくらい、怖い。
弘翔のお父さんなのに、弘翔とよく似ているのに、お父さん世代だとは思えないくらい整った容姿をしているのに…この人は、怖い。
パタパタパタパタ
用意されていた座布団に正座して上座を見るけど、組長は扇子を煽いで私を見据えるだけだ。
言いようのない不安が襲う。
「さてお嬢さん。自己紹介といこうか」
「はっはい…私…「いい、黙れ。君のことは知っている」」
「私の話だ。名は秋庭昌之(あきばまさゆき)。歳は70。秋庭組組長、三季会会長をしている」
低く低く、事実だけを端的に言われて、小さく頷くことしかできなかった。
初対面の人をここまで怖いと思ったのはこれが初めてだ…。
「何か質問は?」
「……ありません」
小さく返すと、扇子を煽ぐ手が止まった。
ぱたんと扇子をたたんでから再び私に視線を移す。
「ならば私が問おう」
「……………。」
「目的はなんだ。弘翔の顔か、秋庭の金か、三季会会長のこの私の命か。それとも裏の世界での地位や名誉か」
「ッ……、」
「君の欲するものは全て私が用意しよう。然らば、今すぐ弘翔から手を引きなさい。ここは君のような普通の人間が足を踏み入れていい場所ではない」
「もっと言おう。一般人の君が極道の世界を見たんだ。今ここで私に殺されても、文句は言えんぞ」
