───次の日
ダカラ、ドウシテコウナッタ…
「あのー……純さん…?」
「へい」
「これはどういう…」
端的に言うと、大学が終わって正門で弘翔を待っていたら純さんに拉致された。
もともと今日は秋庭の本家に行く予定で、弘翔が大学が終わったら迎えに来てくれるはずだったのだ。
それなのになぜかいつもの黒塗りの車で登場したのは純さんだけで、弘翔の姿はなかった。
「すいやせん美紅さん」
「え?」
「おやっさんからの命令なんです。弘さんに見つからないように美紅さんを一人で連れてこいと…」
「え…?」
車に揺られながら落とされた言葉に緊張が走る。
おやっさんって…秋庭の組長のことでしょ…
そんな人に私一人だけ呼び出されるなんて…
「あ、そんな顔しねえでくだせえ」
どうやら不安が顔に出てしまったらしい。
いや…普通、不安にもなるでしょう。
「おやっさんはあの弘さんの親父ですぜ?弘さん同様、とても優しい方です」
「じゃあなんで私だけ…」
弘翔と二人で行くのだって不安なのに…
私の言葉に苦笑いを零した純さんは『おそらく…』と前置いてから、
「姐さんたちの悪ノリです…」
と困ったように言った。
悪ノリ…悪ノリか、なら仕方ない。
いや、仕方ないわけあるか!!!!!!
というか…なんで純さんがその悪ノリに付き合ってんの…?
一人でぶつぶつ言ってると、弘翔から着信が来た。
出ようとスマホを取り出すと…
「あ、出ねえでくだせえ」
と純さんに声を掛けられた。
「すいやせん美紅さん。俺は弘さん命なんでこんなことしたくねえんですが…流石に組の一番上であるおやっさんには逆らえなくて…」
めちゃめちゃ申し訳なさそうに言う純さん。
ここまで言われてしまうと、腹を括って一人で行くしかない。
弘翔には悪いけど…。
「大丈夫ですよ。弘さんなら血相変えて本家に来ると思いやす。それに、おやっさんも姐さんも心の広い人たちなので」
そう言ってくれた純さんを信じよう。
そして、
「姐さんたちは強烈な人でもありやすが…」
と小さく呟いたのは聞こえなかったことにしよう。
