「弘翔ピアノ弾くの!?」




驚いて声を上げると苦笑いを返された。






「それ、兄貴のなんだ。もともとこの家は兄貴のもので、この部屋だけはそのままにしてあるんだ」





「お兄さんの…?」





「そ、だからあんまり入らないでやってくれ。俺も滅多に入らないから」





「わかった…」






聞きたいことはあったけど、弘翔が少し困った顔をしたから口を噤んだ。





弘翔も高巳も純さんもすごい人だって口を揃えて言う弘翔のお兄さんってどんな人なんだろう…。












───「え!?明日~!?」





部屋を全部見終わって、今はリビングでコーヒーブレイク中。





のはずだったのに、弘翔から落とされた爆弾発言によって素っ頓狂な声を上げてしまった。






「明日、大学が終わったら迎えに行くから、そのまま組に行くぞ」






「だから、明日なの!?」






「ん、明日」






「心の準備が…」






「そんなに気張る必要ねえぞ」






いやいやいや…。




弘翔はそう言って笑ってくれるけど、今まで普通の大学生だった私にいきなり極道の敷居は…高すぎる。





え、菓子折りとか必要かな…!?





強面の人たちに囲まれたり…!?






一人で悶々と百面相をしていたらしく、盛大に弘翔に笑われた。







「だから、そんなに気張らなくていいって。大丈夫だ」






「…ホント…?」






「おう。……いや、待て……多分大丈夫だ」






「多分……?」






「男どもは何も問題ないんだが…。お袋と姉貴たちが怖いんだよ…。いつも親父が可哀想なことになってる…」






「え、これ私、ヤバいやつ…?」






「いや、そういう変な意味のヤバいじゃない。でもまぁ大丈夫だろう。面白い人たちだよ」






「………………。」






「親父は極道だと思えないくらい優しい人だし、お袋の尻に敷かれてるからな。全く怖くないし、威厳も何もあったもんじゃない。気さくなおっちゃんって感じの人だよ。お袋や姉貴たちに遊ばれてたり脅されてたら別だが…」







弘翔の話に全く安心なんかできなかったけど、納得せざるを得ない。




粗相だけはしないようにして、しっかり挨拶してこよう…。







不安を抱えたまま、その日は弘翔の美味しすぎるオムライスを堪能して眠りについた。





ちなみに、寝室にはクイーンサイズのベッドが二つあったけど、一つは使わせてもらえませんでした…。