2043年2月、遂に人類が火星に到達した。かつてのTVに代わる有機ELの画面には、遠い昔に放送されたアポロ11号の月面着陸と似たような光景が映し出されていた。ただ違っていたのは科学技術の発展で液晶が鮮明になったことくらいで、人々の狂ったような歓喜も研究者たちの興奮も、昔特集で組まれていたあの月面着陸の様子とほとんど変わらなかった。
 科学技術は恐ろしいスピードで発達し、表面上人々の生活はここ25年で大きく変わった。ただ、生活の根幹となるエネルギーの供給源の問題は未解決のままだった。火力発電のための石油は尽き果てた。再生可能エネルギーの開発はまだ途中段階で普及しておらず、人々の生活を支えるには、原子力に頼るしかなかった。3.11以来停止していた発電所は10年前から稼働を再開。やはり人々は3.11を忘れてはおらず各地で脱原発運動が起こったが、石油の値段高騰により妥協せざるを得なくなった。