その日、私ははじめて捺くんに裏切られた。
約束を、破られた。


でも、先に破ったのは私で。
裏切ったのも私で。


段ボールだらけの自分の部屋で。
無意識のうちに流れる涙を拭く事もせず。
ただ捺くんの事を考えた。


会えなくてもいい。
約束守ってもらえなくてもいい。
ひどいこと言われてもいい。
離ればなれでもいい。


それでもいいから。
捺くんが私の事を覚えていればそれでいいから。
それだけでいいと思える。


それが、私の中で生まれた恋の形だった。
想うだけでいい。
私の事を、忘れないでいてくれたらいい。
また、香織って呼んでくれるなら。


それだけで、私は幸せだと。
そう言える、恋だと。