私の目の前にいる捺くんは。
泣いてるような顔で。
今にも泣き出しそうな顔で。
爪が喰いこむくらい手を握り締めて。
その手を後ろのブロック塀にぶつけた。



「な、つくん。」



ぶつけた手からは血がにじんで。
錆びた鉄の匂いがした。


痛いはずなのに。
痛みを感じていないのか。
捺くんは、顔色一つ変えず。
ただただ苦しそうな顔をしていた。


私に何かを言いかけて。
でも、やめて。
顔を下へ向けて、しばらくしてから。
涙でぬれた私の目を拭って。
私を置いて、先に帰っていった。


拭われた目元に血が付いていることに気付いたのは。
家に帰って鏡を見てからだった。


真っ赤な血。
捺くんの、想い。



「……捺、くん。」



声を殺して泣いた。
泣き叫びたい気持ちを押し殺して泣いた。
下にいるお母さんにバレないように泣いた。
制服がしわになるのも気にしないで。
ただただ、泣いた。
捺くんを傷つけてしまった。


涙は止まってくれなくて。
ひたすらに、制服を濡らした。


だだ、それだけ。
何かが変わるわけじゃない。
それでも、泣いた。


捺くんへの想いの分だけ泣いた。
涙は、枯れることを知らない。
それが、私の捺くんへの想い。