「シゲー? 顔上げてー」

「ごめん、今のボロボロの顔、見せたくないし」

「ダメ、顔上げないと、別れる」

「もう別れてるじゃんか」

「今日一日までは、まだ付き合ってってゆったのはシゲでしょー?」

「なんで、距離置かなきゃなんないのか、分からないよ」

「私だって、やだよ。だけど、このまま、働いてる私が、シゲを甘やかしたら、シゲは本当に駄目な人間になっちゃうよ?」

「分かるよ、分かる、だけど、」

「ねぇ、立って。行こ。」

ひぃらは僕を立たせて、手を引っ張って歩き出した。

「だけど、分からないよ……」

「もう、ウダウダゆわない!」

「いや、俺今真剣に……」

「ほら、行くよ」

と、手を強くつんつんと引っ張っる。

「いてて、俺は犬じゃねぇ」

「さしづめ、パグか、ブルドックね」

「だから、犬じゃないって」

「そのたるんだお腹見てみなよー」

「幸せ太りだろ。ほっとけよ」

「私は痩せてるシゲが好きだったんだよ?」

ぴっと、指を立てて言う。

僕は黙ってしまった。ひぃらの過去形の言葉に、何故かとても傷ついたのを感じた。

野球場のフェンスは、裏側に、大きな穴が開いてしまっていて、
簡単に出入りできる。

僕ら二人は無言で、

黙りこくった嫌な空気のまま、

その穴をくぐり抜け、

外の公園に出た。

なんだかひぃらが、今僕の手を繋いでいる事も、空々しいものに思えてきて、全部が、嘘っぱちに感じた。

だから、最後だから、そのまま言うことにした。

「嘘なんだろ? どうせ、本当は、他に好きなやつができたんだろ? 俺のためだなんて言って、本当は」

「もう、まだウダウダ言ってるの?」

「……ごめん」

「今日は、希望の日だよ? 新しい出発! シゲの門出を祝って、何かおいしいものでも食べに行く?」

「ひぃらの奢りで? 嫌だってゆってたのに? あんなにそれが嫌だから別れようって言ってたのに? 矛盾してるよ」

「貸しだよ貸し! ちゃんと一年後、返しに来て、私をさらいに来て」

僕は今日はやけに涙腺が緩くなっていて、その言葉を聞くと、また泣けてきた。

「無理なんだ。一年じゃ、無理なんだ……」