真っ暗な空が、黒いペンキをぶちまけたみたいに広がっている。どこかの街の光が薄っすら差し込んできていて、ぼんやりと野球のホームベースを映し出している。

「暗いな……」
「あ、そうだ」

ひぃらは、ライターを取り出し、火を付けた。

僕ら二人しかいない、闇の中の野球場を照らし出す。

ひぃらは笑顔で、にっこり微笑み、首をかしげた。

「だから、こんな時に、そんな笑顔」

「んー?」

「そんな笑顔、作んなって」

僕はそれから泣き出してしまった。ホームベースに、雫がこぼれた。白い白線に染みを作っていく。

「えへへー」

だけどひぃらは笑って、ふよふよ歩き回っている。

「ねぇ、スライディングー」

ずささーと、頭から一塁ベースに突っ込むひぃら。

「何やってんだよ。」

「何ー?」

「お前さ、俺が泣いてるの気付いてる?」

「気付いてなかったら、こんな事してないよ?」

僕は一瞬訳が分からずポカンと口を開けたまま立ちすくむ。

それから僕は
「ごめん。お前の気持ち、分かってなかった。こめん。……ごめん」

と謝った。

「ううん、私こそ、試すような事ゆってごめんね」

「お前な……」僕は呆れて呟く。

「ねぇ、野球しようよ! パンパカパーン、ツーアウト満塁、打つのは4番、強打者です!」

そう言ってひぃらは、ぶんぶんと、空気のバットを振り回す真似をする。

「ねぇーほらーシゲも投げてよー」

僕は、丸い球を持ってる振りをして、両手を上にやる。

「ピッチャー振りかぶりましたー」

ひぃらの明るい声が響く。

「うっせぇよっ。ほら魔球だ」

僕はひぃらの胸に向けてボールを投げ込む仕草をする。

「かーん」

あっけなく打たれた僕の魔球は、野球場のフェンスを軽々と越えて行って、

「なあ、そろそろ、ちゃんと泣いていい?」

そういうと、

「ダメー、一球打たれたくらいで、エースが諦めて泣いちゃダメ! ね! 仕事も一緒だよ!」

それを聞いてまた僕は泣けてきて、しゃがみ込んでしまった。

「応援してるから、もう一回……シゲぇ……」

困ったようなひぃらの顔。

天使の、微笑み。

それから、また笑顔になって、

僕の方にとことこ歩いてきて、

ゆっくり肩に手を回して、

ひぃらは僕を、抱き締めてくれた。

泣きじゃくる僕は、なんにもできなくて、

ただただ、ぐしゃぐしゃになった顔を見せるのも恥ずかしいとか、日常の事を思い浮かべ、