いつものように全身が映る大きな鏡の前へと立つと、出掛ける前の最終チェックをする。

だが、すぐに違和感を感じて固まった。

「あ…。眼鏡…」

大事なものを忘れるとこだった。

(ぼけっとしてたらダメだって…)

慌てて机の上に置いてあった眼鏡を手に取り、それを掛けると傍に置いてあった鞄を手にして部屋を後にした。



ずっと街を仕切っていた極悪グループ『ファントム』が撃退されたというニュースが出回り、皆がホッと胸をなで下ろしていたのも束の間。巷では、早くも新たなグループが幅を利かせて悪さを始めたとの噂が持ち上がっていた。

紅葉が通っている高校でも被害に遭った生徒が出ているとのことで、あまり遅い時刻に外を出歩かないようにと再三学校側からも注意喚起があった程だ。

それはファントムが全滅したと噂になっていた、あの日から丁度二週間が経過した頃のことだった。

皆が不安を感じていた通り、簡単に平穏な街へと落ち着くことはなかったようだ。


「前より割と早い時間から柄の悪そうな奴らがウロウロしてるんだ。塾帰りも気を抜けないよ。ホント…住みにくい街になったもんだよね」

隣を歩く圭が深刻そうな表情を浮かべる。

「もしかして圭ちゃん、そういう人たち見掛けたことあるの?」

「ん?あるよ。夜の駅前は本当にそんな奴等ばっかりだよ。僕は自転車で大通りをサッと走り抜けちゃうけど、ちょっと裏道や細い道に入ると危険が一杯って感じなんだ」

「へぇ…。怖いね…」