(ま、悪い奴等はいなくなったというし。これで治安が少しでも良くなってくれれば、それだけ気掛かりは減る訳だし…。良い傾向ではあるよな)

紅葉の夢遊病そのものが治る可能性には期待出来ないだけに、周辺の環境は何より重要だ。


(でも、こないだのあれは…本当に紅葉だったんだろうか?)

夜風に長い髪をなびかせながら、人のない暗い夜の街へふらりと消えていった、その後ろ姿を思い出す。

もしそうだとしたら、家からは随分と離れた場所まで出歩いていることになる。

(紅葉自身は良く眠れてるって言ってたけど…。無性に眠くなるとも言ってたし。やっぱり怪しいよな…)

ひとり小さく息を吐き何気なく時計に目をやると、そろそろ一時限目のチャイムが鳴る時刻だった。

圭が机の中から次の授業科目の教科書等を取り出し準備に取り掛かっていると、再び横で話している友人たちの声が耳に入って来た。


「でもさ、これで解決って訳にはいかないんじゃねぇの?」

「は?何でだよ?」

「だってさ、ファントムを全滅させた強い奴等が今度、この街で大きな顔してのさばる可能性だってあるじゃん?そいつらが正義の味方とは限らないだろ?いままでだってグループ同士の抗争はあったらしいし。たまたま、今回ファントムが負けたってだけじゃん」

「あー確かに…。でも、そうなると今までよりもっと厄介なんじゃ?」

「だよな?キリがないぜ」


そんな物騒な会話に。

圭は頬杖をつくと、再び小さく溜息を吐くのだった。