動揺を隠せないでいる圭の様子に桐生は満足げに口端を上げると、今度は通常の声で言った。

「それが嫌だったら、しっかり掴まえとくんだな?」

ニヤリと笑う、その表情は…ある意味宣戦布告だ。

(正直、この人には勝てる気がしない…)

男の目から見ても彼の(こころざし)や行動は見ていて尊敬や憧憬(しょうけい)(あたい)するもので、圭にとっては自分とは住む世界が違うのだということをまざまざと見せつけられてしまうようなものであった。

(それでも…。僕にだって譲れないものはある)

「ご忠告、肝に銘じておきます」

真面目な顔で真っ直ぐに圭がそう告げると、桐生は面白いものを見るように「おう」と笑った。

そんなすっかり打ち解けたライバル同士のような二人のやり取りに立花は微笑ましそうに笑顔を浮かべ、一人いまいち状況を理解していない紅葉は不思議そうにそのさまを見つめていたのだった。



「圭ちゃん、桐生さんたちとすっかり仲良しになったよね」

どこか嬉しそうに、そう横から見上げて来る紅葉に圭は苦笑を浮かべた。

「仲良しっていうのとは違うとは思うけど…。でもまぁ、良い意味で喝を入れて貰ったよ」

「喝を?」

「そう。紅葉のことでね」

「…私のこと?」

「うん」

未だによく分かっていないらしい紅葉に圭は足を止めてしっかりと向き直ると、大きな瞳を真っ直ぐに見つめて言った。

「紅葉のことが好きなら、ちゃんと離さずに掴まえておけって」

「……っ…」

紅葉の大きな瞳がもっと大きく見開かれ、そこに自分が映っているのが見える。それを覗き込みながら圭は微笑んで言った。


「僕は桐生さんにも他の人にも紅葉のことを好きな気持ち…譲る気なんてないから」