「実は彼女さ、まだ眠ってる状態みたいなんだよね。それで、起き抜けにちょっと暴れちゃったんで今桐生先輩が止めに入ってくれたんだけど…」

「ええぇっ?!」

圭が身を乗り出して紅葉の様子を伺う。

「紅葉…っ…」

「でね、どうにか彼女を正気に戻したいんだけど。本宮くん、何か良い方法ってないかな?」

「方法、ですか…」

圭は小さく呟くと、口元に手を当てて何か考える素振りを見せていた。だが、次の瞬間。顔を上げると同時に大声を張り上げた。



「紅葉っ!」



その突然の呼び声に驚き、声がした屋敷の方へと皆が一斉に振り返る中。その声に反応するように紅葉もビクリ…と身体を震わせると、ゆっくり声のする方を振り返った。

その大きく見開かれた瞳には、声の主である圭の姿を確実に捕らえ、映し出していた。


「けい…ちゃん…?」



「……っ…」

今まで何処か虚ろで陰を落としたような暗い色をしていたその瞳に。一瞬の間に光が差していくようだった。

そのさまを一番間近で見ていた桐生は、すぐにその変化に気付いた。

「如月、お前もしかして…。目が覚めたのか?」

すると、呆然と幼馴染みの少年に向けていた視線をこちらへと戻すと、そこで初めて桐生が目の前にいたことに気付いたように目を丸くした。

「えっ…桐生さん…?どうしてここに…?」

驚いた様子でこちらを見上げている、いつも通りの彼女に。桐生は内心で胸を撫で下ろしつつも複雑な気分になる。

(アイツの呼び掛けひとつで戻るんだな。オレのことは忘れてたくせに…)