そんなこともあり、取り込み中だった桐生に変わり立花が圭を家の中へと通して貰えるようにお願いすると、すぐに快諾してくれたのだった。

そうして、見るからに厳つく強面な男に思いのほか丁寧に案内されながら現れた圭は、言わずもがな緊張に身を固くさせていて可哀想な程だったけれど。見知った立花の姿をその視界に捉えると、ホッと息を吐いたのが分かった。


「おはよう、本宮くん。ごめんね、こんな朝早くから足を運んで貰っちゃって」

「立花さんっ。いえ、僕の方は全然…。それよりご連絡頂いてありがとうございましたっ」

礼儀正しい彼らしい受け答えが返ってくる。だが、落ち着き払った普段とは違う余裕のなさみたいなものが僅かに早い口調から伝わってきた。

それに、普段爽やかな彼が何処かくたびれて見えるのは、気のせいではないだろう。先程電話を掛けた時、彼は早朝から彼女の母親に娘が家に居ないと連絡を受けて一緒に家の周辺を探し回っていたというから、身体的にも精神的にも負担が掛かっているのかも知れない。

それに何よりここまでの到着が早過ぎる。少し調べた限りでは、彼の家はこの桐生の家からかなり距離があった。自転車を走らせて来たにせよ、知らぬ場所を目指してきた割にかなりの短時間で着いたのではないだろうか。

(速攻、家を出て来たんだろうね。健気だねぇ)

立花は微笑みを浮かべた。


「あの、それで紅葉はっ…」

早速本題を口にする圭に立花は笑顔を浮かべたまま、目の前に面した広い庭を指差した。

「そこ」

「……っ?」

圭が指差された方向へと視線を向けると。

そこには周囲を数人の男たちが見守る中、紅葉と桐生が向かい合って立っているのが見えた。