運動神経は元々悪くない紅葉だが、普段はおっとりしているので素早い動きで上手く逃げおおせるというのは、本人のイメージとは少し違う気もする。

それでも自分が夢遊病で出歩いているという事実を人に知られたくないという紅葉の本心には、ある意味沿っていると言っても良いのかも知れないけれど。

「ま、噂なんか気にする必要ないよ。パトロールしている人たちだって毎回当番制で違うんだし。それが紅葉だって分かる人はそうそういないんじゃないかな?」

それよりも、正体がバレるバレない以前に、何故ここに来て外を出歩いてしまう程症状が酷くなったのか。紅葉自身の心のケアの方が大切な気がした。

けれど紅葉は、噂のことがどうしても気になって浮上出来ないでいる様子だった。

(要は見た目で紅葉だとすぐに気付かれなければ良いんだよな…)

紅葉を見つめながら考える。

目の前の紅葉は高い位置で髪を纏めている、いわゆるポニーテールという髪型をしていて、こちらを見ながら首を傾げるその仕草に合わせて後ろ髪がゆらゆらと揺れていた。

紅葉は当時、この髪型でいることが多かった。

頭の端で可愛いな…なんて、ぼんやり見ていたが、不意にあることに気付いた。

(そう言えば…眠る時は流石に髪を結わいてなかったよな)

人は髪型で随分と雰囲気が変わる。

紅葉も例外ではなく、長くなってきた髪をいつも纏めている姿に見慣れた頃。夜、彼女の家に届け物をした際に髪を下ろしているのを見た時、普段との違いにドキッとしたものだ。