『朝起きて気づいたら痣になってて…』


眼鏡の少女が言っていた言葉だ。

掃除屋の戦い方は、今まで見てきて解ったことだが、基本的に左手で相手の攻撃を受け止めたり、受け流したりしながら右手や足を使って攻撃をするのが常だ。そんな戦い方をしていれば、嫌でもあの左腕にはアザが出来てしまうに違いない。だが…。


『私、寝相悪いから寝てる間にどこかにぶつけちゃったんだと思うんですけど…』


もしも、あれが如月なのだとしたら、そう言って笑っていたのはそれを隠すための言い訳だったことになる。

(いや、ありえねぇだろ…)

こちらは向こうの顔を見てはいないが、アイツからすれば毎晩しつこく追い掛けてくる男がオレだということ位、とっくに気付いている筈だ。

それを、あんな稚拙な言い訳で誤魔化せるなんて普通は思わないだろう。


だが、何をどう考えていても。

(オレはただ、信じたいだけなのかも知れねぇ…)

無邪気に微笑む、あの真面目を絵に描いたような見た目の少女のことを。



そんなことを考えている間にも目の前では熾烈(しれつ)な戦いが続いていた。

残り二人の男を相手に戦う少女。周囲には地に倒れ伏す多くの敗北者たちの群れ。それは、いつもの見慣れた光景ではあった。そして一人を倒し、残りはあと一人となった。だが…。

(…何だ?)

何処か様子がおかしい。桐生は眉をひそめた。

少女の動きにキレがなくなってきているのだ。男の攻撃を受け止める際にも勢いに押され気味で、どこかフラフラしている。

(おいおい、危なっかしいな…)

桐生が思わず前へ足を踏み出し掛けたその時だった。

今まで倒れていた一人の男がゆっくり後方で立ち上がるのが見えた。