「何だァ?お前!急に横から割り込んできやがってっ。痛い目みてぇのかっ?!」

刃物をその手から叩き落とされた男が憤慨する。相当強い力で打たれたのか、痛む右手を庇うように押さえ込みながら。

だが、少女は既にその男に興味はない様子で、澄ましてその場に佇んでいた。まるで、そこだけ別の空間に包まれているかのように。

それを横目で見ていた別の男が呟いた。

「まさか…。コイツって、例のアレじゃね?」

「やっぱ?オレもそう思ってた」

「…何だよ『アレ』って…」
 
男たちは、今までの乱闘騒ぎをすっかり忘れてしまったのか、素に戻って互いに顔を見合わせている。

そして、僅かな間を置くと…。


「「お前っ!掃除屋かっ!!」」


認識した途端に、面白い程に皆が目をギラつかせ始めた。



喧嘩を吹っ掛けられた側の桐生たちは、すっかり標的を変更してしまったらしい男たちの様子に呆れていた。

だが、元々こんな雑魚相手に乱闘する気などこちらも更々なかったのだから、この際どうでも良いことにする。

それより何より、掃除屋だ。


「若、もしかして…あれが?」

「ああ、奴が掃除屋だ。思わぬ所で会えたな」

桐生は、途端に気持ちが高揚していくのを感じていた。

まさか、アイツに仲間を助けられることになるとは思ってもみなかったけれど。


目の前で先程の男たちが、掃除屋に飛び掛かっていく。きっと、奴を倒して名を上げてやるとかワンパターンなことを考えているのだろう。

(だが、そう簡単に行くかって)

奴の強さは散々見て来ている。こんな奴ら敵ではない。


だが、不意に。桐生は目を留めた。

男たちを次々と倒していく、奇跡のようなその少女の細腕に。


(あの、包帯は…)