それで、もしも補導されたりしたら、どうなってしまうのだろう?

そうならない為に自分はどうしたら良いのだろう?


…分からない。


(こわい…)


眠るのが怖い。

無意識下で行動する自分が怖い。


とうとう日が昇り始め、遠くの家々の隙間から幾重にも伸びた眩しい光の筋が窓を通して部屋の天井や壁を照らし始める。

長い夜の終わりだ。もう少ししたら、夜勤から母が帰ってくる時刻になるだろう。

(今日も学校か…。やだな…)

紅葉は小さく溜息を吐くと、眩しさに思わず目を細めた。





「はぁ…」


桐生は今日、既に何度目か分からない重い溜息を吐いた。

制服のネクタイを普段通り緩めに通すと、殆ど中身のない空っぽの鞄を手に取り自室を後にする。

幾つもの障子が並ぶ長い廊下をひたすら玄関に向かって歩いて行く。

もうすぐ築七十年にもなる古い日本家屋は、所々綺麗にリフォームはされているものの歩けばギシギシと床が鳴った。それでも、ある一角の部屋の前まで来ると、桐生は毎回少しだけ足音を控えるようにそっと歩くようにしている。

そこは彼の祖父が使っている部屋の前だった。

祖父は今年で八十九歳になる。歳の割に気は元気なのだが、もう何年も前から病を拗らせ、床に伏せっている状態だった。そんな祖父を気遣い、起こさぬようにこの部屋の前だけはゆっくり通過するようにしているのだ。

だが、今日は不意に部屋の障子が開いた。

「あ、若。おはようございます。これから学校ですか?」

中からは、白髪交じりの髪をオールバックにした小綺麗な中年の男が顔を出した。

「おう、(さかき)。おはよ」

桐生は軽く手を上げて挨拶を返す。