そして、最近もう一つ知ったことがある。それは…。


突っ伏していた顔を僅かに動かすと、机の上に組んでいた左腕を軽く目線の前へと持ち上げた。そこには白い包帯がぐるぐると巻かれている。

腫れた手の甲。これは痛みが酷いので湿布を貼った上から剥がれないように自分で包帯を巻いたものなのだが、先日寝て起きた時に気付いたら出来ていたものだった。単なる打ち身だとは思うけれど、実はこういった症状は左手だけではない。腕や足、至る所に痣や小さな傷などが最近増えた。

どうやら、自分はただ歩き回っているだけではないようなのだ。


(イヤな予感は、してたんだよね…)


ふとした瞬間に思い浮かぶ、記憶のようなもの。

薄暗い夜道に(たむろ)する若者たち。向けられるのはニヤニヤとした不快な笑みと絡みつくような嫌な視線。そして気付けば周囲を取り囲まれてしまっている状況。

弱者を虐げることに何も罪悪感や嫌悪感を感じ得ない人でなし。

そんな時、自分の中の何かが訴え掛けてくるのだ。


全部、いなくなってしまえばいい。

全て『殲滅(せんめつ)しろ』と…。


私にとって、それらはある意味トラウマだ。

そう、過去の父の事故と直結している自分の中に眠る心の闇。

もしかしたら、そのことが夜の徘徊に作用しているのかも知れないと、どこかで他人事のように思っていたりする。

自分のことなのに無責任な話だ。

(でも、ホントにただの夢かも知れないし…)

それらを現実と認める手段さえないのが現状なのだ。

(でも、街中で暴れていたら流石にいつかは足が付くよね。歩き回っているだけだとしても、住宅街を歩くよりは誰かの目に付きやすいだろうし…)