心臓が少しだけ、痛いと思った。
名前と好きな食べ物と、人参が苦手なことくらいしか知らない男の言葉に、心が満たされていく音がした。

「やっぱり、連れ込み慣れてるの?」

「・・・え?」

「なんか、ムカつくくらいに口が上手い」

「口が上手い?」

「そもそも、彼女いるでしょう?」

「・・・え?俺に?」

「うん」

「いたらめいちゃん連れ込まないよ」

「・・・」

「めいちゃん?」

「ムカつく」

たぶん、きっと年下であろう大学生の言葉に、動揺している自分にムカついた。
まるで口説かれているみたいな状況に、恥ずかしくて顔を背けた。

「めいちゃん」

「触らないで」

その指先が、私の髪に触れる。

「もう泣いてない?」

「・・・泣いてない」

気づいたら、涙も乾いていた。