結局スペイン風オムレツは諦めて、私が単純な三日月形のオムレツを作ってあげた。
クズみたいな元カレに「たいして美味くない」と言われた私の料理を、湊結児は「美味しい」と目を細めながら食べてくれた。
鬱陶しくて面倒くさくて、料理もエッチも下手らしい私でも、誰かを喜ばせることは出来るらしい。
それがちょっと、嬉しかった。

「大人の女って感じだね」

「何が?」

仕事に行く支度をして玄関に向かった私に着いてきた湊結児が、意味のわからないことを言う。

「仕事モードになったら、急に大人っぽくなった」

「・・・学生とは違うから」

「うん。確かに」

「ていうか、見送りとかいいから!」

「それは俺の自由でしょ?」

「・・・まあ」

そう言われたら、反論出来ることなんてなくて。

「お仕事、頑張ってね」

今日はバイトまで出掛けないらしく、まだ寝間着姿のままの男が甘い笑みを作る。

「段ボールは今日中に取りに来てもらえるように業者に連絡しておくから、引き渡しだけお願いしたい」