気づいた時にはいつも手遅れだ。

彼の部屋を出る時、サヨナラもまたねもなかった。
見送られることもなく、顔を合わせることもないまま、私はスーツケースを持って夜空の下で立ち尽くした。

消えたと思っていた涙が、馬鹿みたいに溢れだした。
傷ついたと思っていた。
また傷つけられたと思っていた。
だけど、本当は傷つけていた。

どうして今まで散々信じてきたのに、一番信じられる人を信じきれなかったのだろう。
ううん。きっと、誰よりも信用できる人だってわかっていたから怖かった。もしも裏切られたときのことを考えたら、自分が傷つくことが怖かった。
自分勝手だ。ちっとも大人じゃない。

そもそもどうして結児君は、私なんかを好きになってくれたのだろう。
その理由すらも聞かないでただ疑い続けていた自分が、心底恥ずかしくてくだらなくて、最低な人間だと痛感した。

言い訳ばかり並べていたのは私だ。
結児君の気持ちと向き合おうともしないまま、ただその優しさに甘えていた。
始まりなんて、なんでも良かったのに。

年齢だって、どうでも良かったのに。
ただその真っ直ぐな言葉を信じれば良かっただけなのに、そんな単純なことに気づけなかった私は、泣く資格すらもない。
こんなにも胸が苦しいのは初めてだ。
大切な人に傷つけられることよりも、大切な人を傷つけることのほうがよっぽど心が痛いことを、私はその夜知った。


最悪な夜に偶然出会った男子高校生との7日間は、再び訪れた最悪な夜の中で、ただ静かに幕を閉じた。