常に手にもつ、首の部分から少し綿が出た大きなうさぎの人形を隣に置きながら。


「これは僕のものです。
そして君も、ね?」


花開くように微笑(わら)うのに、その瞳(め)には狂気が浮かぶ。


見る人を恐怖させるような、笑顔。


「僕が怖いですか?
...ふふっ、その『恐怖』も、可愛いです」


首筋から頬にかけて私の肌を撫でる。


その指はとても冷たくて。


その冷たさに、私は身震いをした。


「彼女たち、とても綺麗だったのに...
すぐに、死んでしまったんです。
...とても、残念です」


並べられた蝋人形を撫でながら、私の手を引いて歩く。


月光(つきびかり)で怪しく白く光る蝋人形は、動き出しそうなほどリアルとフィクションを倒錯しそうな雰囲気を醸し出している。


その祭壇の一番奥に、暗い彩色の女性の絵が飾られていた。


「...この絵は...」


言いかけた言葉に彼は答えた。


「それは、僕の母親ですよ」


私は息を飲んだ。


彼の瞳が暗く哀しく、それでいて迷いのない瞳をしていたから。


「彼女もまた魔女でした。
僕は彼女の血を色濃く受け継いだのでしょうね...彼女は偉大で、畏れられ、いつの間にか僕達魔法使いの世界でも忌避されるようになりましたから」


彼はたった1人で彼女に会い、彼女を殺したのだという。


その時から、永遠を生きる魔法使いになったらしい。


彼女の、膨大すぎる魔力を受け取って。