「貴方は誰……??」


「お、おぉお前こそ!」

魔女といえば夜…、と思われがちだが、この魔女は昼が好きだった。マントを翻し、悠々と歩いていると何かが、魔女のマントを掴んだのだ。


「……僕はレイ。」


おそらく薄汚れた孤児だろう…。
魔女は目が見えず、子供の顔を見ることが出来なかった。

ただ気配だけがそこにだだよっている。


「お前の行く先はどこだ。」


「……どこにも。」


「そうか。


ならついてきなさい。
気まぐれだ。助けてあげよう。
今日からお前は我が子だ、レイ。」


「……ほんとに…?」


きっと愛くるしい姿をしているのだろうな…。

魔女はニコリと微笑むと、レイを抱き抱え我が家へ飛んだ。




「ここがお前の部屋だ。
これがお前のもの。
ここはお前の家だから、好きにするといい。だが変なところを触るんじゃないぞ。お前は賢い子だ。分かったかい?

……さぁ、温かいスープを作ってあげるから、手伝いなさい。」

レイにとってその言葉は暖かく、心に染み渡る言葉だった。
魔女自身で造ったであろう木造の家は温かみのある雰囲気で、レイを落ち着かせた。


「うん……っ。」



「レイ、お母さんは目が見えない。
服を干すのを手伝ってくれないか。」

「レイ、お前の誕生日だ。
喜ぶかと思ってプレゼントを用意した…。」


魔女はレイに生きるすべを教え、知識を与え、そして何より、愛する心を教えてくれた。


「レイ、もう立派な大人になったんだろうな……、私もお前を1度でいいから見たかったものだ。」


ある夜、魔女はレイの顔を触ってふわりと笑った。


優しい魔女は昔、目のない者に目をやってしまった。


悲しそうに笑う魔女を見てレイは、
こう呟いた。


「僕の目を1つあげるよ、お母さん。それなら、僕もお母さんも見えるだろう?」



……優しい子に育ったものだ。

ありがとう。

レイは魔女に片方の目を与えた。



「……レイ、お前は人の子だったのか…。」


「……はい、お母さん。」

涙が溢れる片方の目には、レイの姿がしっかりと映し出されていた。


青い髪。青い目。透き通ったように白い肌。身長もそれなりに高く、それでいて美しい子だった。




魔女が涙するわけは、もう一つあった。


「レイ。
人間の世へ帰るのだ。
連れていってやるから用意しなさい。」

レイの正体は、孤児でも、一般人でもなく、






王族の子だったのだった。
代々この国の王の血を引くものはみな青い髪、青い目をしている。
色が濃ければ濃いほど、血の繋がりが深いことを表しているのだ。


レイは、真っ青だった。


レイ「……どうして…?」


「お前は、王族の子だ。
それも王の子。この国の王子だ。
ここにいてはいけない。」


胸が張り裂けそうになりながらも、魔女はしっかりと事実を伝え、魔法を使って森の入口まで連れていった。


「行きなさい。
お前は行くべき場所へ帰るんだ。」

「……っお母さん……。
一年に一度、必ず会いに来ますっ
貴方はたった1人の母だから…っ!」


涙が溢れそうになりながらレイは、困らせまいと必死で笑顔を作った。

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「お母さん、おはよう。」

「お母さん、遅くなってごめんね。」

「お母さん、ただいま。」

何年も、何年も、レイは魔女の元へ休むことなく一年に一度通った。




「……もう、来なくなってしまった…。あれから100年、死んでしまったのか…。」

片方の目で外を見ながら、魔女は1粒の涙を流した。

「……あぁ、レイよ。我の子よ…。
もう一度、もう一度だけお前に会いたいと願う私を許しておくれ……。」



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"お母さん、僕だよ、レイだよ。
何年も来なくてごめんね。ただいま。"


「あぁ……レイ…。」

次に魔女の前に現れた時、その姿はもう人間のものではなかった。


「…使い魔になったのかい……。」

溢れる涙を流しながら魔女はレイに抱きつき、小さな子供をあやす様に背中を摩った。

人間ではない、使い魔の我が子を抱きながら。











「……さぁ、疲れたろう。
温かいスープを作ってあげるから、手伝いなさい。」



「喜んで、お母さん。」



END