その言葉を言っても詮索されない保証は?
秘密を隠し通せる?
これだけしつこい人が簡単に諦める?

そんな疑問ばかり頭をぐるぐるしている。


無意識の内に目線を逸らしていたらしく、
こっちを見ろ、と言わんばかりに空いている左手で私の顎を持ち上げた。


脳内に【逃げる】コマンドしかない私は
どうしたらいいかわからず、とっさに


「お願い…か、関わらないで。」

そう、口にしていた。
そしてその言葉を聞いた男はあからさまに不機嫌になった。


こんなの絶対おかしいでしょ…。
なんで出会ったばかりの人にこんなに迫られているわけ?


そう思っていた矢先

ふわりとシトラスの香りが強くなった。
と、同時に鼻をくすぐるサラサラの髪


「…んぅっ」


気付くと顔が目の前にあって…私の唇が、
馬鹿みたいに高い体温に蝕まれていた。


これ…キスだよね?


突然のことに頭が追い付かず、ゆるゆると状況を理解し始めた。
そして同時に、嫌悪感やら怒りやらが込み上げてくる。


拘束が緩くなったのを感じ、すぐさま両手を
引き抜いて肩を押し、唇を解放させる。


そして私は思いっきり手を振り上げた



パーンッ!!


私の非力な力の限りを使って、男の左頬に平手を食らわせた。




「…最っ低」

今の心情をそのまま吐き捨てる。


ジンジンと痛い私の右手
それ程強く打ったのにも関わらず、またこちらをじっと見据えている。




「もう、近付かないで…」


この男に対する感情と、自分が抱いている感情がゴチャゴチャになって、私はまた逃げるようにその場を去った。