「なあ、『朱殷』って知ってるか?」
「"時間が経った血のような朱色"だろ?」
2人の男は話をしている。
「いんや、違うんだよ。」
「どういう意味だ?」
暗く、じめじめと湿気のあるそこは、不気味さを際立たせるのには十分な場所だ。
「世界№1の殺し屋のコードネームなんだよ。」
「ああ、そういえば聞いた事がある気がする。」
「ばーか。こっちの世界じゃあ常識だぞ?」
1人の男は歩き出した。
「……どこに行くんだ?」
「逃げるんだよ。」
「何故?」
「それはな、さっき話した『朱殷』が俺らを殺しに来るかも…」
ザシュッ
男の言葉は続かなかった。
宙を舞っているその男の首の目は見開かれて、口が大きく開いている。
もう1人の男はその光景を見ていることしか出来ない。
「朱殷を頂戴っ♪」
狂っている。
男は本能的に思った。
状況把握もままならないまま、2人目の男の首は弾け飛んだ。
「あぁ美味しい!」
手についた朱殷をひと舐めしたそいつはもう……
クルッテイル。
「次の依頼、いつかなぁ?」
恐ろしい程に満面の笑みのそいつの目は、もう光を映していなかった。