しばらく私は、その扉にもたれて、彼女がデッサンする様を眺めていた。

彼女は音を発しない。

咳もアクビも、ましてやしゃべったりなんて決してしなかった。

ひたすらにキャンパスに炭を走らせ、それがお互いにこすれる音しかしない。

とても居心地がよかった。

もたれた背中がドアにあたって痛いが、それを我慢してでも、ここにいることはそれ以上の価値がある。

私の好きな無音だ。

よけいな音はいらない。あるべき音だけが欲しい。

それはまさに、無音という音だった。