いつの間にかキンモクセイの甘い香りは、消えてなくなってしまった。

小さなオレンジ色の花たちが、枯れてしまったのが目に浮かぶ。


あいつの姿ももう、目にすることができなくなっていた。

毎日のように公園を横切っても、公園の隅にあるベンチには誰も腰掛けていない。



今ならわかる。


誰かと一緒にいて、胸の奥がくすぐったくなったことも。

誰かのことを想って、涙をこらえたことも。

キンモクセイの甘い香りが漂うたびに、思い出す人がいるということも。

初めてだった。


もしも初恋の相手が自分だと知ったら、怒るだろうか。

それとも。笑って「ありがとう」って言うのだろうか。





『知ってた?キンモクセイの花言葉ってね、“謙虚・真実・初恋”なんだって』







【END】