「お前の顔にはっきりと助けてくれって書いてある」
「…っ……」
否定出来ないでいる私の手首を掴んで一君はぐんぐんと先は進んでいく。
大人しく着いて行くと数日前の豪雨の影響で少し水嵩の増した鴨川に着いた。
江戸にいた頃から何かある度に河原に来ていたが、やはり見ているだけで、水の流れる音を聞いているだけで、荒れていた心が落ち着く気がする。
三条大橋の真下まで来たところで一君は漸く手を離してくれた。
「ここなら新撰組にも御陵衛士にも見つからないだろう」
そう言うと彼はそっと腰を下ろした。
仕方なく私もその場に腰を下ろすと側に咲いている紫陽花の上をノロノロと進む蝸牛が目に付く。
「お前は私のようだな」
溜息と共に零すと蝸牛の甲羅を親指と人差し指で摘んだ。
「そうやって…ノロノロと歩いているから……大事なものを見落として、時代に取り残されるの」


