輪廻ノ空-新選組異聞-

自分の体の前に回された腕、そして手。

見下ろすと、逞しくて、がっしりとした手で。

でも、繊細そうな長くて細い指。

筋肉の筋が浮かんだ腕に自分の手を重ねた。



幕末なんかに殆ど興味のなかったわたし。

父親の好きが高じて、無理やりに入門させられていた天然理心流の道場。

そこで不本意にも才能が開花したらしく、あっという間に切紙まで頂いて。

高校卒業の年になって、つまり理心流の修行を始めて9年で、中極位目録を許された。

その才を買われて、京都の壬生寺で行われることになった古武道サミットに、天然理心流の代表として参加することになったんだ。

それが、到着した壬生寺で、まだまだ時間があることを知って、がっくりしていた私は…

本堂の階で足を滑らせて…

気づけばこの幕末にいた。



信じられないけれど、受け容れなくてはいけない現実が余りにも厳しくて。

でも、乗り越えてこられたのは…

沖田総司のおかげ。

名前を知っていたことが最初の安心につながったけれど…彼の真摯なまでに私を気遣う態度は、私に「生きる」ことを教えてくれた。

本当なら、会うどころか、見たり、触れたりすることもあり得ない過去の時代の人。

その人のこの腕に、手に守られてきたんだ。

そして、このぬくもりに。



背中にぴったりとくっつくぬくもりに、ついに涙が浮かんだ。


私はなんて…

幸せなんだろう。

尊敬もしている。

いつまでも私の全ての先生だろう。

近藤先生や、土方さんだってそうだけれど…。でも、沖田さんとのつながりは、特別だと感じる。

そんな尊敬してやまない人に惹かれ、恋して、愛して。

そしてその相手も、私に愛情を抱いてくれた。


私は体を反転させて、沖田さんに正面から抱きついた。

「総司さん…っ」

言葉にならない深い気持ちが湧いてきて止まらなかった。


「お蘭…」

沖田さんの体温が益々熱くなったように感じる、布越しの肌。

ぐっと抱きしめる腕に力がこもって、私も力をこめて抱きしめ返した。

「本当に、いつも、ありがとうございます。私は幸せ者です」

なんとか言葉にできたことを伝えた。心から。