ツクツクボウシがしきりと庭で鳴いていた。

コオロギらしき虫の音もして。

昼間沖田さんと山の中を歩いた時は真夏みたいに暑かったけど、こうしてると秋なんだなって思う。



「何をボッとしてやがる」


ハッ。

帰隊後わたしが書いたこれまでの調書と明日からの監察方の予定表を確認していたのを終えた土方さんの声に我に返った。

「ちゃんと秋が来てるんだなぁと…虫の音で思ってしまいました」

素直に答えたら、ちょっと不機嫌そうな声だった土方さんだったのに、頷いて。

「そうだな。月も冴えて見える。月見草も夜闇で光っているしな。だが…」

この男所帯だ。何事も乱雑に、多忙にかまけてるうちに冬になってらぁな、と続けた土方さんは、ふと言葉を切って、わたしを見た。

「今朝道場で改めて思ったが…」

「はい」

「おめぇも、一輪の花だな」

「………」

は?

「何か悪いものを食べたんじゃありませんか?」

正気ですか?と続けたら…

ビシッ

とおでこにでこパッチン。

「~~っ」

「正気だ!」

むさ苦しい中、おめぇの所だけ凛と爽やかな風情でな…と、土方さんは早口に言って。

そう言えば、沖田さんにも似たようなことを清水寺で言われたなぁと、思い出した。

「…気を付けます」

ただでさえ衆道が蔓延してるのに、土方さんにまでそんな事言われるぐらい目立ってるなんて、と言ったら土方さんは苦笑いをして。

「無論、それも大事だが…、悪い意味ではなく、良い意味でも皆の刺激になっていると思ったんだ」

美童だなどと言われているが、剣を持てば負けん気の強さは誰よりも強く、どこまでも努力を惜しまない、そういった気概が凛とした風情を作るんだと、土方さんは、こっちがこっぱずかしくなるような事を真顔で言った。

「池田屋以降、入隊希望者も増えてきて、益々大所帯になるだろう」

だからわたしのような存在は良い意味で効果があるだろう、と。

土方さんはそう言ってくれた。



「頼りにしてるぜ」



最後にそう付け足して。

嬉しくて。

わたしはますますこの大切な人達の為、今、こうして生きている人達の為、自分も精一杯頑張りたいと思った。