あれからどんな道を通ってここまで歩いてきたのかは、正直あまり覚えていなかった。
ただ、目の前に見慣れたこのビルがそびえ立っているということは…とりあえず無事に職場までたどり着いたのだということで。

大手コンサルティング会社を筆頭に企業事務所、出版社や法律事務所まで…それぞれがそれなりに大きな力を持った施設が多く入った複合型の巨大オフィスビル。
ここの受付嬢、それが私の仕事である。

「はー…」
髪を束ねて、指定のスカーフを巻いていく。
ロッカーの扉に付いた鏡を見ながら、身なりと一緒に乱れた心も落ち着かせるように深呼吸をする。

うーん…
今私の思考回路と手のひらの中にあるのは、先ほどの出来事を思い出させる小さな一枚の紙きれ。

そして迷った挙句…ポケットの中にそれをしまってから、ロッカーの扉を閉めた。

毎朝恒例の受付カウンターの掃除を済ませて、花瓶の水を替えていく。
ここはそれなりにセレブな建物だ。その顔とも言える受付には塵一つあってはいけないと、入社当初から口酸っぱく教えられている。

はぁそれにしても…

手を動かしながらも、頭を占めるのはやっぱり今朝の出来事で。
だってどこぞの恋愛ドラマじゃないんだから…すんなりとは受け入れられなかった。

こんな風に初恋の男の子に再会するなんて。