翌朝。
鳴り響いたいつものアラームに起こされて部屋を出ると、リビングにもどこにもそーちゃんの姿はなかった。

かわりにテーブルの上には美味しそうな朝食と1枚のメモ書きが残されていて。
手に取ってみると、『時間だから先に出ます。今日仕事場出るとき、連絡して』と書いてある。

仕事か…そりゃそうだよね。

心の中に感じたのは、昨日のことが夢ではなかったのだという実感と…なんとなくさみしいような、そんな感覚。

昨日の夜、そーちゃんがそばにいてくれて、安心して眠ることができた。
それだけでも十分過ぎるほど、彼の優しさには感謝するべきなのに。

起きたときもそばにいて欲しかった…胸の中に生まれたそんな思いに蓋をするように勢いよく首を横に振った。

『…ぐぅ』

けれど。
人間という生き物は、どんなときも三大欲求には逆らえないらしい。
メモ書きの中で一ミリも触れられていないことが不自然なほどの存在感を放つ食事に対して音を立てた私のお腹に、ある意味感心してしまった。

「ありがたくいただきます、そーちゃん」

誰もいないリビングで丁寧に両手を合わせてから、美味しくそれを頂いて。
起きた時よりも少し明るい気持ちになりながら、出社の準備をするために私は洗面所へと向かったのだった。