「ありがとうございましたー!」

それから曲と挨拶が終わり、ステージの上から5人が捌けていくまでの時間は…正直どこか上の空だった。

「やー、奏くんがあんなあからさまなファンサするとこ初めて見たわ」
「ファンサ?」

メンバーの去ったステージを見上げながら余韻に浸っている実彩子先輩の言葉が何のことを指しているのかがすぐにはわからなくて、思わず目を瞬いた。

「新曲の『2人だけの秘密だよ?』のところよ!…え、あのとき茉優ちゃん、奏くんとガッツリ目合ってたよね!?」
「あ、あぁ…そうなんですかね?」

曖昧な返事しか出来ない私の傍ら…実彩子先輩は、それはそれはもう興奮気味なようである。

「奏くんってまんべんなく会場を見てるっていうか、目線も後ろの方のお客さんに向いてることが多いからさ…あんな至近距離で目が合ったの、茉優ちゃんが初めてかもしれないよ」
「そ、そうなんですか…」

…とは言われても。
その前のところですでに思考が半フリーズ状態だった私にとって、その部分の記憶はほとんどないに等しい。

けれど同時に…暗闇で聞こえたあの言葉は、おそらく実彩子先輩の耳には届いていなかったのだろうと理解した。