いくつかのアップテンポな曲のあと、簡単な自己紹介のようなMCを挟んでから始まったバラードの流れ。

「次の曲は、奏から紹介してもらおうと思います」
そして響くんから振られたそーちゃんが、マイクを握った。

「これは初めて自分が作詞した曲で…すごく思い入れのある曲です」
そーちゃんが言葉を紡ぎながら、会場全体をゆっくりと見渡していく。

「まっすぐに届いてくれたら、嬉しいです」
…そして右端で、止まった。

「え、奏くんが笑ってる…!」
「なに?あんな優しい顔初めて見たんだけど!やばい!」
小さくざわめく観客席。だけどそのときの私には、どこか遠くにしかそれは聞こえていなかった。

「聞いてください、『adore』」

イントロが始まったことで再び周囲が静かになる。
聞こえたそれは、実彩子先輩に借りて予習したphaseの曲の中でも…とくに心に残っていた曲だった。

切なくて、悲しくて…だけど、いつか叶うはずのない願いさえも叶えてしまいそうなほどの強い意志を宿したような歌詞。

…その曲の間中、なぜだかわからないけれど涙がこぼれてしまいそうで。
そして最後にメロディーが途切れ照明が落ちる直前、再びそーちゃんが優しく微笑んだ気がした。