それを、週に一度弟の家庭教師として我が家に来ていた彼が、土曜日の午後に手土産として我が家に持ってきた。


家庭教師の日でもなかったのに。


『たまたま朝早く目が覚めたから』


『その店の方向についでがあったから』


そんな言葉を付け加えながら、喜ぶ私を嬉しそうに見た彼の顔は、今でもはっきりと思い出せる。


「……どうしたんですか、それ」


昼休みにわざわざ呼び出して、私の好物のそれを見せびらかしたかったんだろうか?


……悪趣味。


「恵都(けいと)が朝一で持ってきた」


「え⁉︎」


恵都、と聞いて思わず大きな声が出た。


砂川 恵都、ここでまさか弟の名前が出てくるとは思わなかった。


恵都は私の2歳下で地元の高校教師をしている。


看護師として働き始めて、一人暮らしを始めた私はたまに実家で顔を合わせていたけれど、恵都が今でも彼と付き合いがあるなんて知らなかった。


「薄情な姉とは違って恵都とは向こうにいる時も連絡取り合ってたしな」


『向こう』とは、大学卒業後彼が働き始めた病院がある場所のことだろう。