「はぁ・・・」

わかり易いくらい大きな溜息が龍之介の口から漏れた。
教室の窓側に座る彼は赤髪が光に反射して余計に目立つ。


「はぁぁぁあ・・・・・・」


より一層深くなる溜息に見兼ねた杉山は声をかけた。


「・・・どないしたん?なんかあったん?」


彼は龍之介と同じクラス。
席が近いことがきっかけで仲良くなった一番の親友だ。

ムダにイケメンの彼は、流行りの丸メガネをかけていて、黒の短髪が余計にオシャレ感を際立たせている。

フランクな関西弁と物腰の柔さも相まってモテるのは言うまでもない。


「そないに溜息ついとったら背縮むで」

「縮まねぇよ!」

そして長身なため、背の低さを気にしている龍之介を時々いじる。

「で、どないしたん?彼女と喧嘩でもしたん?」

龍之介の悩みは大抵倫子だ。
むしろ倫子以外にない。
勉強などということは絶対にありえない。


沈黙が続いたあと、
龍之介は辛そうな顔をして重い口を開いた。




「倫子が可愛すぎてツラい・・・・・・!!!」



「・・・・・・


・・・・・・そないなタイトルのマンガあったなぁ」



聞かなければ良かったと杉山は遠い目を龍之介に向けていた。



「だってよー、見ろよコレ!ほ・・・・・・いや、見るな!」


「なんやねん」


先程まで見つめていたスマホを杉山に向けようとしてやめる龍之介。


「杉山まで倫子に惚れたら困る!」



・・・ますます遠い目になる杉山。



「なんだよ」

「・・・いやぁ、今日も平和やなぁって」

「は?」


「龍ちゃんが幸せそうでなによりやわ」

「龍ちゃんいうな!」


倫子が龍之介を“龍ちゃん”と呼ぶのを知ってから杉山は面白そうにそう呼ぶようになった。


「ごちそーさん」


そう言って杉山は自分の席に戻っていった。


これは、龍之介くんの日常。

END