「何故、こんな所で雨宿りをしていたの?」
 柚莉花が問いかける。
「家を飛び出してきた」
 やけにさっぱりとした口調で彼は話し出す。
「劇団に入ってたんだけど、親が多額の寄付をしてたんだ。そこでいくら主役を演じても自分の実力が認められなくて。……親に黙って劇団を退団した。高校も実家を出て推薦された学校に行くフリしながら、別の高校に入学してたんだけど、それがバレて呼び出し」
 苦笑しながら話すも、智博の瞳に迷いはなかった。
 自分の夢を追うにも親が敷いたレールを歩まそうとする。
 望み以上のことまで手を回そうとする両親。そこから外れると『ここまでしてやっているのに』と押し付けがましく言ってくる。
 だからもう放ってくれ、と。
「これでもう、さっぱりした。今は高校で演劇部を創ってる」
「そうなんだ…」
「柚莉花は? なんでこんな別荘にひとりで?」
「私は……」
 まっすぐな智博の瞳から視線をそらして柚莉花は口にする。
「……私って、必要ないのかなぁ……」
 ずっと抱えていた不安。