毎年、年度末に発行されている文芸部の小冊。
 それに柚莉花が発表した短編小説を原作に、文化祭の舞台で演じようというのだ。
 文芸部と演劇部の文化祭共同参加というカタチで、すでに部活の顧問からは許可は取っているらしく、彼女の返事次第だった。
 そんな状況で柚莉花も否とは言えるはずもなく承諾すると、そのまま今後の予定の打ち合わせに入っていく。
 遅れてやって来た文芸部の部員達も交えて、シナリオの製作や配役、文芸部も舞台設営を手伝う感じで話は進んでいった。
「もうこんな時間だ。今日は終わろう」
 木谷が時計と暗くなっていく外の景色を見て終了を促し、皆が部室を退出する。
「それじゃまた」
と背を向けた智博の後ろ姿を柚莉花は見送る。
 顔を見ても表情を変えなかった彼に、軽いショックを覚える。
 髪を切り、容姿も少し変わったとはいえ、初対面のような対応…覚えて、気付かれなかったという、淋しさ。
 去っていく後姿が過去の姿とダブり、彼女の記憶を鮮明に思い出させる。

 一年前の一晩の出逢いを。