「ん?」
 他愛のない言い合いをしている智博と桜を横目に小さく笑みを浮かべる。
「今しかできない片思いだから、経験しとかないと、ね」
 意外な答えに蒼を凝視してしまった。
今しかという事は今後は…ってことよね・・・
 視線に気づいて何も知りません、気付いてませんと笑みを浮かべる彼が、この中で一番の演技力を持っているんじゃないか。
 口元に浮かぶ笑みが意味深で、思わず『桜ちゃん頑張れ』と応援していいんだよねと不安になる。
「はい、二人とも。夏に向けての演劇大会の打ち合わせするよ」
「おうっ」
「はい」
 蒼の鶴の一声に答える元気な返事を聞きながら、新しい居場所を心地よく感じているのに気付いた。
 一年前、智博と会ったことが、今の自分につながっている。
 こうやって笑っていると、運命ってあるんだなぁと信じることができた。

【END】