「澤田が気持ちを込めて一生懸命作ったんだなっていうのが伝わってきた。なんだか、温かい気持ちになったよ。俺は少したりとも失敗作だなんて思わなかった」
頭から守屋先生の手の温もりが伝わってくる。それが何だかとても心地よかった。
「もし、悔しいし納得のいく仕上がりじゃなかったと思うんなら、それを糧に次頑張ればいいんじゃないかな。ほら、来年だってまだあるんだし。そういう気持ちを経験したからこそ、次作る時はとびきり最高のお菓子が作れると思うよ」
守屋先生は白い歯を出して笑う。
私の心の中に、何かがストンと落ちた気がした。
守屋先生の笑顔がまぶしい。吸い込まれそうになる、そんな笑顔だ。
心臓の脈打つ音が早くなるのが分かる。
「………じゃあ来年は、もっともっと……とびきり美味しいお菓子作ってやります」
乾き始めている涙を拭い、そっぽを向いてそう呟く。先生の顔を見るのが何となく恥ずかしかったのだ。
守屋先生はハハッと小さく声を出して笑った。
「それはすごいお菓子ができそうだ。来年が楽しみだな!」
ーーー人を好きになるきっかけなんて、案外単純で何でもない日常に転がっているものなのかもしれない。
私はその日から、守屋先生が好きになってしまったんだ。


